おいしいコーヒーを淹れる 8

 サイフォンで淹れるコーヒーを初めてみたのはどこでだろう。不確かな記憶をたどれば長浜駅前通りにあったUCCカフェメルカードだったような気がする。初めて行ったのは高校生の時か。今から思えば噴飯ものの勘違い案件であるが「喫茶店には不良が出入りする」ようなイメージがある。

 私が初めて喫茶店といわれるところに入った記憶は小学校一年生にさかのぼる。同級生に寿司屋の子がいた。放課後近所だったから遊びに行くと夕方からの仕込みを終えた女将さんである同級生のおかんが「ぼん、ジュース飲みに行こ」と自分の息子と私を連れてこれまた近所の喫茶店「なぎさ」に連れて行ってくれることがよくあった。子どもはコーヒー飲まへんものと思い込んでいたのか「ミックスジュース飲むか」とすすめられこんなおいしい飲み物あるねんなと思いつつ「これジュースなん。果汁ってどこなん」と感じつつもその得も言われぬおいしさに「こおり多すぎやん」と思いながらも「ごちそうさまです」とほくそ笑んでいた。その寿司屋「若竹」は大学の文化祭の頃には模擬店のためにネタやシャリを提供してもらっていた。同級生はあとを継ぐこともなくやがて閉業していた。これを思い出して書いているうちに「そういえば、遠足の時その寿司屋のカッパ巻きをお弁当に頼んでもらっていた」ことを思い出す。だから昼のお弁当を開くと寿司屋のぼんと私は同じかっぱ巻きだった。

 話を長浜駅前通りのカフェメルカードに戻す。喫茶店の中でもUCC、そう上島珈琲が豆を卸していたのだろうその店は純喫茶と呼ばれるカテゴリーだったように記憶する。当時ウインナーコーヒーをよく注文していた。クリーミーな泡が最後まで楽しめた。カフェカプチーノに添えられていたシナモンスティックにも「へええぇ」と思っていた。シナモンの香りからこれってニッキやんとも思い、八つ橋とも仲間なんだと想像を広げていた。この店がサイフォンでコーヒーを淹れていた。

 布フィルターを上のガラスロートにセットし、少し粗挽きの豆を入れる。下のガラスポットに出来上がり容量より少し多めのお湯を入れゴム栓のついたガラスロートとつなげ、下からアルコールランプで温める。すると温められた熱湯が上昇し、上のロートでくるくると粉が舞う。頃合いを見計らって火を止めるとやがて琥珀色の旨そうなコーヒーが下のポットに勢いよく戻ってくる。理科実験のような現象を不思議にうまくコーヒーを淹れることを考えた先人に脱帽する。その店に行く度その所作をずっと観察していて、サイフォンを手に入れたときには何の不明もなくうまいコーヒーを抽出することに成功していた。

 カフェメルカードには何度も行ったが一人で観察に行くことが主目的だった。ハワイアンアイスコーヒーを抽出する大がかりなガラス器具がデイスプレイされていたがそれを注文する客にはでくわしたことがなかった。デート目的で何度か訪れたことはあるが、誰と行ったか?どんな話をしたか?何を頼んだか?すべて覚えてない。不思議である。 つづく

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